その23 【スパルタ先生とオペラ劇場編】

時期:2002年06月09日                                               執筆日:2005年11月09日
当時うちの大学には3人のコレペティ(ピアノ伴奏の先生)がいたのだが、僕がついていたのはそのなかのハインリッヒという先生だった。

彼は恐ろしく怖い人で、レッスンの時間に1分でも遅刻すると怒涛のようにわめき散らす。レッスンでも、同じ場所を3度間違えるとこれまた怒り散らす。それに当時はドイツ語がまだままならなかったのでそれについてもガミガミ言われてた。そんな怖い先生だったので楽譜からなるべく忠実に、早く歌うことを余儀なくされ、後から見てみると、いい初見の訓練になった。当時はびくびくしてたが。レッスンに行きたくない病にもなりそうになった。まぁそれは置いといて。

彼は音大でコレペティもやっていたのだが、本業(?)はミュンスターオペラ劇場の合唱指導者だった。だから彼のレッスンのときはわざわざ劇場まで行かねばならず、遅れそうな時は全身汗だくになるまで走った。そして合唱練習室は劇場の最上階にあったので、遅れそうな時は階段をダッシュで駆け上る。ドイツのエレベーターは遅いのだ。

ある時レッスンが終わって次のレッスンの時間を決めたあと、先生が

「升島君、今度の土曜にフォアジンゲンがあるから○○○の曲を持って××時にここに来なさい」

と言う。とりあえず当時は彼に逆らわないようにするのが得策だという考えに辿り着いていたので、「ハイ、わかりました」といって部屋をあとにした。

実はその時は何のことを話してるのか理解してなく、まぁとりあえずその楽譜を持って行って歌えばいいのかなと思ってた。

当日、またまた遅刻しそうになり(この遅刻グセはいつまでたっても治らない)、焦って部屋に入ろうとすると、後ろからハインリッヒ先生が呼び止める。なんかいつもと違って柔らかな物腰で

「おーおー、そんなに息を切らせて。とりあえず落ち着いてから始めようか」

と言う。???なんなんだろう?まぁレッスンじゃないからカリカリしてないからなのかもしれないがと思いつつ息を整え、合唱練習室に入った。

するとそこには先生と、見知らぬ男の人が2人ほどいて、こちらの方を向いている。にこやかだ。ハインリッヒが彼らに

「彼は升島唯博君で、私の生徒だ。彼はテノールで○○○の曲を歌う」

と言った。わけがわからないながらもとりあえず先生に楽譜を渡し、歌い始める。途中ちょっとミスった。

歌い終わると先生が彼らに「どう?問題ないだろ?」などと言っている。そのあと少し部屋から追い出され、2,3分後にまた中に呼ばれてなにやら合格を告げられた。なんとあれよあれよと言う間に何かのオーディションに合格していたらしい。その何かとは、このオペラ劇場のエクストラコーラス(大編成のオペラなどのときに正団員に加わって歌う合唱。結構頻繁にある)のことだった。ちなみにきちんと給料も出るのである。少ないけど・・・。

なにやら既に練習が始まってるらしく、次の演目の楽譜をその場で渡された。ドイツオペラ劇場初デビューの演目はミュージカル「ジーザス・クライスト・スーパースター」だった。その日の晩から練習に参加し、名前を紹介され、ドイツのオペラ劇場に立つという最初のステップを、小さいながらも踏み出したのでした。


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